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金沢地方裁判所 昭和27年(行)9号 判決

原告 岡良一 外二名

被告 石川県知事

一、主  文

原告等の請求を棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

二、事  実

一、請求の趣旨

原告等訴訟代理人は「被告は石川県条例第十九号(昭和二十七年五月二十四日告示)に基き同年九月十五日になした原告三名に対する石川県臨時道路補修特別税賦課処分は夫々これを取消す」との判決を求めた。

二、請求の原因

原告等訴訟代理人は請求の原因として次のとおり述べた。

一、原告岡良一、同宮下太一及び同雲戸成義は昭和二十七年九月二十八日被告より夫々石川県条例第十九号(同年五月二十四日告示)に基き同年九月十五日付臨時道路補修特別税徴収令書の交付を受けた。

二、而して右臨時道路補修特別税(以下本件税と略称する)は次にのべるような理由により違法である。

(一)  地方税法第四条第四項には県が目的税として賦課できる税種を水利地益税のみに限定しているにも拘らず本件税のような法の認めた水利地益税の内容をもたない目的税を課することは許されない。

(1)  即ち同法に謂うところの目的税とは、(イ)特定事業の実施に要する費用に充てるため(特定の事業の存在)、(ロ)当該事業により直接利益を受けるもの(特定の受益関係の存在)に対して課せられるもので、従つて徴収した税金は他の目的に流用できない性質のものである。

(2)  ところで本件税を規定した前記条例第十九号の第九十六条の二には、本件税賦課の目的として「県民の普遍的な負担によつて道路橋梁等の改良補修費を充足するために臨時道路補修特別税を課する」と規定し、又右税の徴収令書に添付された説明書には「天候不順な北陸は表日本より道路や橋が非常に破損しやすくこれを補修するため云々」と明記している点よりして明らかなように本件税は道路橋梁の補修工事のため徴収されるもので右は前述した目的税のための要件中、(イ)の特定事業の存在なる要件を満し、

(3)  而して本件税は右のとおり同県下の道路橋梁補修工事のためそれに要する税源を全県民に求めているのであるから右事業と納税者との間に特定の受益関係があることになる訳で、従つて前述の要件中(ロ)の特定の受益関係の存在なる要件を満している。尚本件税が同法第七百二条に規定する水利地益税でないことは明白である。

(二)  仮に本件税が目的税ではなく法定外普通税であるとしても以下述べる理由により違法である。

(1)  同法第四条第三項に「道府県は前項に掲げるものを除く外別に税目を起して普通税を課することができる」と規定し、法定普通税として同条第二項に列挙した税以外に新たに税目を創設して所謂法定外普通税として課税できることをうたつている。

而して所謂シヤウプ税制勧告に基く現行地方税法は地方団体の自主性を尊重し地方財政を弾力性あるものにするためその範囲に於て右法定外普通税の創設を許した趣旨と解すべきで、随意税目であるからとの理由で法定普通税及び目的税以外ならばあらゆる税目を起しても妨げないものとしているのではない。

同法第二百六十一条に於て地方財政委員会(以下地財委と略称する)の許可を必要としているのもこのためである。

(2)  ところで本件税は同条第一項第一号に違反しているから法定外普通税として認める余地がない。

(イ) 本件税は国税又は他の地方税と課税標準を同じくしている。即ち本件税は年所得額金八万円以上のものが全部人頭割的に負担しなければならないのであるから明かに県民税の再現であり課税標準を同じくするといえる。

(ロ) そのため住民の負担が著しく過重となる。

即ち我国所得税は戦前(同九年より同十一年)には一一%であつたのに同二十六年に三九%、同二十七年に三五%と上昇し、個人国民所得に対する比率は戦前〇、五%、同二十六年五、八%を示し国税地方税合計の国民所得に対する比率は戦前一二、五%が同二十六年には二六%に増加している現状に於て金沢市にあつても同二十七年度を基礎として同二十八年度に市民税として賦課される額は納税義務者一人当り金三千五百九十六円であるのに、更に本件税総額金六千万円を所得額を対象として割当て負担させることは著しい過重といわなければならない。

(3)  本件税は同条第一項第三号に違反している。

右第三号には国の経済施策に照して適当でないときとあるが、右経済施策として現今の我国は租税制度の改革と云うことを挙げているのであつて、租税制度を合理化することにより資本の蓄積を期し、ひいては戦後日本の産業経済の復興発展を見ることができるのである。それにも拘らず本件税のような過重な税を課することは明かに産業の振興を圧迫するもので国の経済施策に反するといえる。

(三)  以上のとおり本件税は目的税であるから違法であり仮に目的税でないとしても法定外普通税とはなり得ないのに被告は原告等に対し右違法な条例に基き課税したので同二十七年十月七日被告に対し夫々異議の申立をしたが同月二十八日付で右申立は却下されたので、やむなく本訴において被告の原告等に対しなした本件税の賦課処分の取消を求める次第である。

三、請求の趣旨に対する答弁

被告代理人等は主文同旨の判決を求めた。

四、請求の原因に対する答弁

被告代理人等は原告等主張の請求原因に対する答弁として次のとおり述べた。

(一)  第一項は認める。

(二)  原告等が本件税に対する見解として第二項に述べたところは失当である。即ち、

(1)  本件税は目的税でない。

(イ) 所謂目的税として法が認めたものには水利地益税があるのみであつて原告等も認めるように本件税が水利地益税でない限り目的税ではあり得ない。

(ロ) 原告等は本件税を規定した条例第十九号の第九十六条の二に右税の賦課の目的が記載されているから目的税であるというが、右は「税収入を必要とする県の財政需要があること」を明かにするためのものであり、右目的を掲記したからといつて直に税の性質を最終的に決定したものとは云えない。

(ハ) 本件税は課税方法に於て道路橋梁等の改良補修により利益を受ける程度を算定して賦課するのではなく県民の普遍的負担によるもので、しかもその道路橋梁は何等特定されず県内全般に亘つて必要に応じて補修しようというのであつて本件税の納税義務者の地先を補修し納税義務者でない者の地先を補修しないというようなものではないから原告等のいう特定の受益関係は全然予定しておらない。

(2)  法定外普通税としても有効である。

(イ) 法定普通税及び水利地益税以外のものは法定外普通税としても賦課できるのであり、それが仮令目的税的なものであつても法定外普通税とすることは差支えないものである。

而して本件税は次にのべるとおり同法第二百六十一条の要件を満しているのである。

(ロ) 財政需要と税源について

石川県のような積雪地帯の道路損傷度は表日本に比して著しく県民の多数はその補修を強く要望していたので同二十六年度には県単道路改良費に金一億円の予算を計上したものの他の支出に割かれ実際は金三千五百万円の支出を見たのみで、新税を設けなければこの需要に応じ難い有様であつた。而して税源については本件税を賦課したところ総計金五千七十万円もの税収入を得たことよりして税源の存在したことは甚だ明らかである。

(ハ) 同条第一項第一号に該当しない。

本件税を課するため納税義務者の所得を対象としている点では所得税乃至市町村民税と同一であるが、納税者を七乃至九段階に分つている点では必ずしも同一の課税標準であるとはいえないし、仮令同一であるとしても著しくその負担が過重でなければ許されるのである。而してこの点については控除後の所得額金八万円から金十万円の者に対し本件税を金三百円賦課することになるが、右は総所得額の一万分の二十五で、住民一世帯当り市町村税の金六千二百七十三円に対し本件税が金三百四円であることよりして決して過重であるとはいえない。

(ニ) 同条第一項第三号に該当しない。

同号にいう国の経済施策とは物資の統制、産業の維持又は抑止等について国が決定した基本的な国策を指称するもので租税政策というものではない。而して右のような意味に於ける国の経済施策に本件税が牴触するものではない。

(3)  ところで本件税を規定する石川県条例は同二十七年三月二十九日石川県議会において適法に議決され同年五月九日に地財委の許可を得て同月二十四日適法に公布されたもので右条例に基く本件税の賦課は有効である。

(三)  第三項中、原告等がその主張の日時に本件税の賦課に対し異議の申立をなし、右異議が却下されたことは認める。

五、被告の答弁に対する原告等の陳述

原告等訴訟代理人は被告の答弁に対する陳述として、

(一)  被告主張の日時に本件税に関する条例が議会の議決を経た上、地財委の許可を得て公布されたことは認める。

(二)  被告は目的税として道路税の新設を企図したところ地財委の不許可にあい、そこで特別県民税として賦課しようとしたがこれ又地財委の不許可となつたため本件税を設けた点、並に本件税を規定する条例を県議会に於て審議した際被告は本件税が目的税である旨答弁した点よりして被告は本件税を目的税として県民税の代りに設ける意図をもつていたものといわなければならない。

(三)  被告は財政の需要があるとして本件税は県単道路改良補修に充てるため設けたというがそのような目的のために本件税を設けたのであるなら尚更目的税であつて法定外普通税ではない。

(四)  法定外普通税として北海道、岩手、福島、青森、福岡等の各道県に家畜税、牛馬税、特別遊興税等を夫々設けているがこれらは本件税とその成立の動機内容において到底同一に論ずる訳に行かない。

(五)  地財委が同法第二百六十一条第二項により本件税を一カ年限りの期間を付して臨時税として許可したとしてもその内容よりして前述のとおり法定外普通税としても設けることができないのであるから右許可によつて本件税が有効にはならない。

とのべた。

六、(各証拠省略)

三、理  由

一、本件税を規定する石川県条例第十九号が昭和二十七年三月二十九日同県議会で議決され同年五月九日地財委の許可を得て同月二十四日告示されたこと、及び右条例に基き被告が同年九月十五日原告等に対し右税を賦課したことは当事者間に争がない。

二、ところで本件は要するに右税が地方税法に謂うところの目的税であるかどうか、目的税でないとしても法定外普通税として適法かどうかにかかつているので、この点について逐次審按する。

(一)  本件税が目的税かどうかについての判断

現行地方税法において道府県税は普通税と目的税に大別されるのであつて、普通税とは一般的経費支弁のために課せられ、而して税目が法定されるかどうかによつて法定普通税と法定外普通税とに更に区分できるのに対し、目的税は特定の事業目的に充てるために課せられる税であつて、現行法に於ては道府県税としての目的税は水利地益税のみを予定しているのである。(同法第四条第四項)而して目的税はその事業目的が明定されているのであるからその性質上右事業により特別の利益を受ける者に対しその費用の全部又は一部を負担せしめるのを常則とし(同法第七百二条参照)従つて目的税の要件としては、(1)特定事業目的の存在、右(2)事業の実施により特に利益を受ける者より右費用に充てるため税を課することが要求されるのである。そこでこの見解の下に本件税を精査すると、本件税を規定した石川県条例第十九号第九十六条の二に「県民の普遍的な負担によつて道路橋梁等の改良補修費に充足するために(本件税を)課する」とうたつて本件税を賦課する目的を明示しているが道路橋梁等の改修により特に利益を受ける者(例えば交通運搬の業を営むもの、又は沿道住民等)のみに対し課税するものでないことは前述のように「県民の普遍的な負担において」とうたい、且同条の三に於て本件税の納税義務者として「(1)県内に住所を有し且つ一戸を構えて独立の生計を営む者、(2)県内に事務所又は事業所を有する法人」を規定しているところよりしても明白である。

そうすると本件税は目的税として前示(2)の要件を欠きこれを目的税と解することはできない。

もつとも本件税を規定する右条例を審議した石川県議会において被告は本件税が目的税であるかのように答弁していることは成立に争のない甲第三号証によつて認められるが、被告の本件税に対する答弁の文句如何によつて右税の性質が左右されるものでないこと勿論であつてこの点に関する原告の主張は理由がない。

(二)  本件税が法定外普通税として違法であるかどうかの判断

法定外普通税とは前段にのべたとおり法定税以外に地方団体がその特別事情により独自の判断において適当な税源と財政需要があれば新しく税目を起して課税するものであつて、右は要するところ地方団体の自主性を尊重し地方財政の弾力性の強化に資せんとするもので、ただ地方税法は地方財政の困窮が時として地方団体をしてこれを濫用し所謂法定外普通税の名目の下に悪税を設けしめ、ひいては租税体系を乱すことのないように地財委に同法第二百六十一条第一項に規定する要件の審査をせしめることにしたのである。

そこで本件税が法定外普通税として適法か否かは結局右第二百六十一条第一項に規定した要件を満しているかどうかの判断に帰するのであるから以下順次この点について考えて見る。

(1)  財政需要があること明らかであるかどうか

成立に争のない乙第九号証の県内三市十七町村の満二十歳以上六十歳未満の男女千名の標本を対象にして石川県政についての世論調査報告書中、「お宅の近くの道路は大体よいと思いますか、それとも早急になおさなければならないと思いますか」との間に対し、早急になおさなければならないと回答したものが全回答者の五四、五%を占め、「重要な県道の状態がどうか」との問に対し、悪いと答えたものが四四、三%にも上り、更に「新しく県民一人当り金百円位の税をとつてまでなおす必要があるか」との問に対し、右問を肯定し税金をとつてまでなおした方がよいと答えたものが全回答者の四六、三%の多きに上つたことが認められ、而して成立に争のない同第八号証の同二十六年同県歳入歳出決算書によると、県単道路改良費金一億円を計上しながら約金三千五百万円しか支出されておらないことが認められるのであるから石川県としては県民の要望に答えるために明かに県単道路の改修の財政需要があつたものといえる。

(2)  税収入を確保できる税源のあることが明らかであるかどうか。前段認定のとおり前示世論調査の回答者四六、三%もの多くの者が一人当り金百円位の税金をとつてまで県道を改修することを望んでいたこと、及び後段において認定するとおり本件税賦課による県民一人当りの負担は総所得の一%を下廻るものであること、並に成立に争のない同第十一号証により認められる同二十八年一月三十一日現在において本件税を八三、二%徴収することができたことをも併せ考えると本件税収入のため明かに税源があつたといつてよい。

(3)  原告は本件税は右第二百六十一条第一項第一号及び第三号の消極的要件を欠いていると主張するからその点について判断する。

(イ) 本件税が国税又は地方税と課税標準を同じくし、且つ住民の負担が著しく過重となることかどうか。

本件税が他の地方税と課税標準を同じくするかどうかの点を暫く措き県民の負担を著しく過重にするかどうかの点であるが、成立に争のない乙第六号証によると、住民一人当りの課税、県税、市町村民税の負担額は合計金三千三百五十円であるのに対し、本件税負担額は僅か金六十三円であり、一世帯当りにして市町村税の負担額約金六千三百円に対し本件税の負担額が金三百四円であることが認められるから右税の個人所得額に対する割合は一%をはるかに下廻るものであるといわなければならない。

そうすると右程度の税負担ではいまだその負担が著しく過重なものとはいえないから本件税の課税標準が他の地方税と同一であると否とに拘わらず、前記第二百六十一条第三項第一号に該当しないといわねばならない。

(ロ) 国の経済施策に照して適当でないかどうか。

同項第三号の「国の経済施策に照し適当でない」との消極的要件であるが、原告等の主張する勤労者階級の税負担の軽減、即ち租税政策は国の経済政策の根幹をなし重要な国策の一つといえるが、本件税の負担は前述のとおり僅か一人当りの所得額の一%にも当らないし、右税により県道が補修されそれによつて享受する幾多の利益に鑑みるとき本件税が未だ以て国の経済施策上適当でないとはいえない。以上説示の通り本件税は法定外普通税として地方税法第二百六十一条第一項の各要件を満しており何等違法の点なく地財委が本件税の新設申請を許可したことは相当といわなければならない。

三、そうすると本件税が地方税法上目的税であり、仮りに目的税でないとしても法定外普通税としても違法であることを前提に被告が原告等に対し本件税を賦課したことの取消を求める原告等の本訴請求はその他の判断をするまでもなく失当であるからこれを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十三条を適用し主文のとおり判決する次第である。

(裁判官 観田七郎 柏木賢吉 古崎慶長)

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